子どもの教育費は家計における大きな支出の一つであり、計画的な準備が不可欠です。学資保険と投資(特にNISA)のそれぞれの特徴を理解し、効果的に組み合わせることで、無理なく十分な教育資金を準備することが可能です。本レポートでは、教育資金の実態を踏まえながら、学資保険と投資の特徴、それぞれのメリット・デメリット、そして両者を賢く組み合わせるコツについて解説します。
教育資金の現実と準備の必要性
日本の教育費の実態
文部科学省の調査によれば、幼稚園から高校まで公立校に通った場合の学習費総額は全国平均で約155万円、私立校の場合は約445万円に達します。さらに大学進学となれば、入学金や4年分の授業料などが加わり、総額は数百万円規模になることが一般的です。これに塾や習い事などの費用を加えると、子ども一人あたりの教育費は非常に大きな金額となります。
早期からの計画的な準備が重要
このような高額な教育費を捻出するためには、早期からの計画的な準備が欠かせません。子どもが進学時期を迎えてから資金準備を始めても間に合わないことが多く、早くから少しずつ積み立てていく方法が現実的です。また、準備期間が長ければ長いほど、投資による運用効果も期待できます。
教育資金準備の選択肢
教育資金を準備する主な方法としては、学資保険への加入と投資(特にNISAなどの税制優遇制度を活用した投資)の二つが挙げられます。どちらにもメリットとデメリットがあり、家庭の状況や価値観に合わせて最適な方法を選ぶ必要があります。多くの場合、これらを組み合わせることで、リスクを抑えながら効率的な資金準備が可能になります。
学資保険の特徴と活用法
学資保険の基本的な仕組み
学資保険は、子どもの教育資金を計画的に準備するための貯蓄型保険です。毎月一定額の保険料を支払い、子どもが一定の年齢に達した際に、進学準備金や満期学資金として受け取ることができます。学資保険の大きな特徴は、契約時に将来受け取る金額が確定している点で、計画的な資金準備が可能になります。
学資保険の種類と受け取り方
学資保険の受け取り方には、主に以下の3種類があります:
- 一括給付型:満期時に学資金を一度に受け取るタイプで、大学入学時などまとまった資金が必要な場合に適しています。
- ステップ型:満期前に「祝い金」として学資金を分割して受け取るタイプです。小学校から大学卒業まで進学の節目ごとに資金が必要な場合に適しています。
- 据え置き型:満期時に学資金を受け取らず、そのまま保険料を支払い続けることで返戻率を高め、保障を継続させることができるタイプです。
学資保険のメリット
学資保険には以下のようなメリットがあります:
- 計画的な資金準備:毎月一定額を支払うことで、自動的に教育資金を積み立てられます。
- 保障機能:契約者(親)が万一の場合でも、以降の保険料支払いが免除され、予定通りの学資金を受け取れる「保険料払込免除制度」があります。
- 税制優遇:支払った保険料は生命保険料控除の対象となり、所得税や住民税の負担を軽減できる可能性があります。
- 元本保証:原則として元本割れの心配がなく、安定的に教育資金を確保できます。
学資保険のデメリット
一方で、以下のようなデメリットも存在します:
- 運用益の低さ:満期時の受取率はおよそ110%前後で、資産運用としてのリターンは限定的です。
- インフレリスク:一定の利率で運用されるため、インフレが進んだ場合に資産の実質価値が目減りする可能性があります。
- 流動性の低さ:途中で解約すると元本割れになる可能性があり、資金を自由に引き出すことができません。
- 物価変動への対応力の弱さ:将来の物価上昇に対応できないため、実質的な購買力が低下するリスクがあります。

投資(NISA等)を活用した教育資金準備
NISAの概要と教育資金への活用
NISA(少額投資非課税制度)は、投資の運用益や配当金が非課税となる制度です。2024年から始まった新NISAでは、より柔軟な投資が可能になりました。教育資金準備としては、長期の積立投資が可能な「つみたてNISA」や成長投資枠を活用する方法が考えられます。
投資を活用した教育資金準備のメリット
- 高いリターンの可能性:過去20年間のS&P500の年平均リターンは約7~8%で、学資保険よりも高い運用益が期待できます。
- インフレに強い:株式などの実物資産への投資は、インフレに対する防衛効果があります。
- 柔軟性の高さ:必要に応じて資金を引き出せるため、使途の自由度が高く、教育以外の目的にも活用できます。
- 税制優遇:NISAを利用することで、運用益に対する税金が非課税になります。
投資を活用した教育資金準備のデメリット
- 元本保証がない:市場の変動により元本割れのリスクがあります。特に短期的な市場下落が進学時期と重なると、十分な資金を確保できない可能性があります。
- 自己管理の必要性:投資商品の選択や運用管理を自分で行う必要があります。
- 心理的な負担:市場の上下動に伴う精神的ストレスがあります。
効果的な投資戦略
教育資金のための投資戦略としては、以下のポイントが重要です:
- 長期的な視点:子どもの年齢に応じた長期投資を心がけましょう。特に子どもが小さいうちは、株式などのリスク資産への投資比率を高めることも検討できます。
- 資産の分散:国内外の株式や債券など、複数の資産クラスに分散投資することでリスクを軽減しましょう。
- 定期的な積立:毎月一定額を積み立てる「ドルコスト平均法」を活用することで、市場の上下に左右されにくい投資が可能になります。
- リスク調整:子どもの進学時期が近づくにつれて、リスク資産(株式など)の比率を下げ、安全資産(債券や預金など)の比率を高めていきましょう。

学資保険と投資の賢い組み合わせ方
相互補完効果を活かす
学資保険と投資を併用することには、大きな相互補完効果があります。学資保険と投資信託を併用すれば、お互いの弱点を補いながら教育資金を準備できます。例えば、学資保険の安定性と投資の成長性を組み合わせることで、リスクを抑えながらもより多くの資金を準備できる可能性があります。
リスク分散の実現
投資で元本割れを起こしても、学資保険では原則として元本割れの心配がないため、安定的に教育資金を用意できます。これにより、市場の短期的な変動に左右されることなく、必要最低限の教育資金を確保することが可能です。
節税効果の最大化
学資保険の生命保険料控除と、投資信託でのNISAも活用すれば、一方しか使わない場合よりも節税効果を高められます。これにより、同じ金額を投入しても、より効率的に教育資金を準備することができます。
家計状況別の最適な配分
家計の状況や教育資金の目標額、リスク許容度に応じて、学資保険と投資の配分を検討しましょう:
- 安定志向の場合:学資保険に重点を置き、余裕があれば少額から投資を始める配分が適しています。例えば、学資保険70%、投資30%程度の配分が考えられます。
- バランス型の場合:学資保険と投資を同程度の割合で準備します。例えば、学資保険50%、投資50%程度の配分が考えられます。
- 成長志向の場合:投資に重点を置き、基礎的な部分を学資保険でカバーする配分が適しています。例えば、学資保険30%、投資70%程度の配分が考えられます。
資金的余裕の確認
学資保険と投資信託を併用する場合、保険料に加えて投資の資金が必要となるため、お金に十分な余裕があるかを確認することが大切です。無理なく継続できる金額設定が、長期的な教育資金準備の成功の鍵となります。

教育資金準備のための実践的アドバイス
ライフステージに合わせた準備方法
- 妊娠期~乳児期(0歳):この時期から学資保険に加入することで、月々の負担を軽減できます。同時に、長期的な視点での投資も始めることが理想的です。
- 幼児期(1~6歳):まだ教育費の本格的な支出は少ない時期です。この時期に学資保険と投資の双方で着実に積み立てることが重要です。
- 小学生期(7~12歳):習い事や学習塾などの費用が増え始める時期です。支出を見直しながら、引き続き教育資金の準備を継続しましょう。
- 中学生期(13~15歳):高校・大学進学に向けた具体的な資金計画を立てる時期です。投資の一部を安全資産にシフトさせることも検討しましょう。
- 高校生期(16~18歳):大学進学に必要な具体的な資金を確定させる時期です。投資の多くを安全資産にシフトさせ、学資保険の満期に備えましょう。
無理なく継続するためのポイント
- 家計の状況に合わせた金額設定:無理のない金額から始め、収入が増えた際に増額することも検討しましょう。
- 自動積立の活用:給料日に自動的に口座から引き落とされる仕組みを利用することで、継続的な積立が容易になります。
- 臨時収入の活用:ボーナスや副収入などの臨時収入があった場合、その一部を教育資金に回すことで、無理なく資金を増やすことができます。
定期的な見直しの重要性
- 家計状況の変化に応じた見直し:収入の増減や家族構成の変化など、家計状況が変わった場合は、教育資金準備計画も見直しましょう。
- 教育方針の変化に応じた見直し:子どもの進路希望や教育方針が変わった場合は、必要資金の見積もりと準備計画を調整しましょう。
- 経済・市場環境の変化に応じた見直し:インフレ率や金利動向、投資環境の変化に応じて、資産配分や投資戦略を見直しましょう。
結論:持続可能な教育資金準備のために
子どもの教育資金準備は、長期的かつ計画的に取り組むべき重要な課題です。学資保険と投資のそれぞれの特性を理解し、自分の家庭状況や価値観に合わせて最適な組み合わせを選ぶことが大切です。
学資保険は、計画的に資金を確保する点では優れていますが、柔軟性が低く、リターンが限定的です。一方、NISAなどを活用した投資は高いリターンを期待できますが、市場リスクがあります。両者を賢く組み合わせることで、安定性と成長性のバランスの取れた教育資金準備が可能になります。
最も重要なのは、無理なく継続できる仕組みを作ることです。家計に過度な負担をかけず、長期的に持続可能な方法で教育資金を準備していきましょう。また、定期的に計画を見直し、環境の変化に柔軟に対応することも忘れないでください。
子どもの可能性を広げるための教育資金。計画的な準備によって、将来の選択肢を狭めることなく、子どもの夢を支援することができるでしょう。