人生の様々な段階で変化する保険ニーズに対応するには、ライフステージごとの必要保障額を正しく理解することが重要です。本記事では、結婚、出産、住宅購入、子どもの独立といった各ライフステージにおける必要保障額の変化と計算方法を解説します。必要保障額は「遺族の支出から収入を差し引いた金額」という基本的な考え方に基づきますが、家族構成や住居形態によって大きく異なります。賃貸と持ち家それぞれのケースに基づく具体的な計算例も紹介し、あなたのライフプランに合った保険選びをサポートします。
必要保障額の基本的な考え方
必要保障額とは、万が一あなたが亡くなった後、残された家族が生活を維持するために必要となる金額です。より具体的には、遺族の支出から遺族が得られる収入を差し引いた不足分を意味します。この不足分を死亡保険でカバーするのが、保険設計の基本的な考え方となります。
必要保障額の計算式
必要保障額は以下の計算式で求めることができます:
必要保障額 = 遺族の支出 – 遺族の収入
「遺族の支出」には、生活費、子どもの教育費、住居費用、葬儀費用などが含まれます。一方、「遺族の収入」には、遺族年金、貯蓄、死亡退職金、残された配偶者の収入などが含まれます。
重要なのは、必要保障額は一生涯固定ではなく、ライフステージの変化に伴って変動するという点です。そのため、結婚、出産、住宅購入、子どもの独立などのタイミングで保険の見直しが必要になります。

ライフステージ別の必要保障額の変化
結婚時の必要保障額
結婚は死亡保険について検討する重要なタイミングの一つです。結婚によって守るべきパートナーができると、万が一あなたが亡くなった場合にパートナーの生活を支えるお金が必要になります。独身時代とは異なり、残されたパートナーの生活を考慮した保障設計が求められます。
この段階では、パートナーの就労状況や今後の住居計画なども考慮して、必要保障額を算出することが重要です。例えば、共働きの場合と専業主婦(夫)の場合では、必要保障額に大きな差が生じます。
出産・子育て期の必要保障額
お子さまが生まれると、必要保障額は大幅に増加します。これは、パートナーの生活費に加えて、子どもの養育費や教育費をまかなう必要があるためです。子どもの誕生は、保険への新規加入や既存の保険の見直しの必要性が高まる重要なタイミングです。
出産・子育て期の必要保障額を考える際は、子どもが成人するまでの養育費、教育費(幼稚園から大学まで)、さらには子育てに伴う住居費の増加なども考慮する必要があります。この時期は、家計における主な稼ぎ手の死亡リスクに対する保障が最も重要となる時期です。
住宅購入時の必要保障額
住宅を購入して住宅ローンを組む場合、多くの人は団体信用生命保険に加入します。この保険により、万が一あなたが亡くなった場合、住宅ローンは返済されたものとなり、家族はローンの返済義務から解放されます。そのため、団体信用生命保険に加入した後は必要保障額が減少します。
住宅購入前に加入した死亡保険は、保険金額が必要以上に高額になっている可能性があるため、住宅購入後は保障内容の確認と見直しを行うことが重要です。ただし、住宅の管理費や修繕積立金などは継続して必要となるため、これらの費用も考慮に入れる必要があります。
子どもの成長と独立後の必要保障額
子どもが成長するにつれ、将来必要な子どもの生活費や教育費の総額は徐々に減少していきます。そのため、必要保障額も子どもの成長に伴って減少していきます。さらに、子どもが独立した後は、子どもにかかる支出は基本的になくなり、必要保障額は大幅に減少します。
この段階では、残された配偶者の老後生活を維持するための費用が主な考慮点となります。保険加入当時よりも子どもが成長している場合や、子どもが独立した後は、加入している保険が現在の家族状況に合っているかを見直すことが重要です。
具体的な計算例
お子さまのいるご家族(賃貸)のケース
賃貸住宅に住む家族の場合の必要保障額の計算例を見てみましょう。このケースでは、35歳の夫(会社員、年収600万円)、35歳の妻(専業主婦)、0歳の子どもがいる家族を想定しています。
遺族の支出(合計:1億3,821万円):
- 妻の生活費:4,680万円
- 子どもの生活費:792万円
- 子どもの教育費:987万円(公立幼稚園から高校、私立大学文系)
- 住居費:7,200万円
- 葬儀関連費用:162万円
遺族の収入(合計:1億1,027万円):
- 遺族基礎年金:1,891万円
- 遺族厚生年金:3,941万円
- 老齢基礎年金:1,795万円
- 死亡退職金:500万円
- 貯蓄:500万円
- 妻の収入:2,400万円
この場合の必要保障額は、遺族の支出(1億3,821万円)から遺族の収入(1億1,027万円)を差し引いた2,794万円となります。
お子さまのいるご家族(持ち家)のケース
持ち家の場合、住宅ローンが団体信用生命保険によって保障されるため、必要保障額は賃貸の場合よりも抑えられます。このケースでは、37歳の夫(会社員、年収600万円)、40歳の妻(専業主婦)、5歳と3歳の子どもがいる家族を想定しています。
遺族の支出(合計:1億1,986万円):
- 妻の生活費:7,050万円
- 子どもの生活費:1,140万円
- 子どもの教育費:1,942万円(公立幼稚園から高校、私立大学文系)
- 住居費:1,692万円(管理費・修繕積立金のみ)
- 葬儀関連費用:162万円
遺族の収入(合計:9,806万円):
- 遺族基礎年金:1,881万円
- 遺族厚生年金:3,510万円
- 老齢基礎年金:1,795万円
- 死亡退職金:500万円
- 貯蓄:200万円
- 妻の収入:1,920万円
この場合の必要保障額は、遺族の支出(1億1,986万円)から遺族の収入(9,806万円)を差し引いた2,180万円となります。住宅ローンが団体信用生命保険によってカバーされることで、賃貸の場合よりも必要保障額が少なくなっていることがわかります。

必要保障額を算出する際の注意点
必要保障額を算出する際には、以下の点に注意することが重要です:
- 家族のライフプランを考慮する: 必要保障額は家族のライフプランによって大きく変わります。将来の子どもの人数、教育方針(公立か私立か)、住居計画(賃貸か持ち家か)など、家族の将来設計を踏まえた上で必要保障額を算出しましょう。
- 定期的な見直しが必要: 前述のように、必要保障額はライフステージの変化によって変動します。子どもの誕生や成長、住宅購入、転職など、生活環境や家族構成が変わったタイミングで定期的に必要保障額を見直すことが重要です。
- 公的保障制度を理解する: 遺族基礎年金や遺族厚生年金などの公的保障制度についても理解しておくことが大切です。これらの制度によって得られる収入を正確に把握することで、より適切な必要保障額を算出することができます。
結論:失敗しない保険選びのポイント
保険選びで失敗しないためには、以下のポイントを押さえることが重要です:
- 現在のライフステージを正確に把握する: あなたの家族構成や生活状況に合った保障内容を選びましょう。
- 将来のライフプランを考慮する: 結婚、出産、住宅購入などの将来のライフイベントを見据えた保障設計を行いましょう。
- 必要保障額を正確に算出する: 本記事で紹介した計算方法を参考に、遺族の支出と収入を詳細に検討し、必要保障額を算出しましょう。
- 定期的に保険内容を見直す: ライフステージの変化に合わせて、定期的に保険内容を見直しましょう。
- 過剰な保障を避ける: 必要以上の保障は家計の負担となります。特に子どもの成長や住宅ローンの完済後は、保障額を減らすことも検討しましょう。
これらのポイントを押さえることで、各ライフステージに適した保険選びを行い、無駄のない効果的な保障を実現することができます。保険は「もしも」のための備えですが、その「もしも」の内容はライフステージによって変化することを忘れないようにしましょう。